vole1917モデル
どういう経緯で
今いるリュック専門店を知ったのかは
よく覚えていませんが
とにかく品数豊富で選択肢が多すぎて
困ってしまいました。
困った時は店員さんに聞くに限ります。
私の注文を聞いた店員さんが倉庫から持ってきたリュックは
生きた化石と呼ばれている
カブトガニのようなカタチをしていました。
「お客様 このリュックはいかがでしょうか
ご希望通り 色は黒 サイズは肩にすっぽりハマる
やや小さめ 背負った時 軽くて 翼をつけたように
ふわふわした感じが特徴です。絶対おすすめです。
vole1917モデル 別名ブラックスワン」
「でね お客さま このリュックには逸話がありましてね
初めて実用化されたのは 1917年のフランスなんですよ
場所は西部戦線 このリュックを背負って戦ったフランス
兵士だけがドイツ軍の地雷原を何度も突破して無事生きて帰って
きたということです」
「一点限りの商品です」
細面でまるぶちメガネを掛けた店員さんは
饒舌でパワフルで 私は完全にノックアウトされました。
家に帰って リュックの取説を読み
荷造りを済ませて早々に寝ました。
翌日 上野発10時の特急電車に間に合うように家を出ました。
ところが この日は
ツキがありませんでした。
ブラックスワン
リュックをがって地下鉄の駅に着くと
電車は到着遅れ。
どの駅も人がいっぱいでドアが閉まらない
アクシデントの連続。
電車は遅れに遅れ 頭はのぼせ 汗はタラタラ
時計を何度も見 焦るばかり。
地下鉄上野駅に着いたのは9時58分。
特急電車のホームは地上。
発車まであと2分
「無理だ」の言葉が頭をよぎりましたが 同時に
リュックの取説の言葉を思い出しました。
地下鉄のドアが開いた瞬間
私は下手なフランス語で「vole」を3回言いました。
すると まさかの出来事が起こりました。
突然 私の背中が「バサッバサッ」と音をたて
身体は一気に宙に浮き あっという間に地上へ。
電車の発車ベルが鳴っています
改札機を通過。
私は全力疾走しました。
背中の翼が風をおこして追い風20メートル。
「プシュップシュップシュ」と音をたてて
特急電車のドアが閉まりました。
酸欠になった私は 揺れる特急電車のデッキで
フラフラになりながら何とか立っていました。